これからの診療所経営のヒント

1. はじめに

 院長に悩みや困りごとをお聞きすると、集患よりもスタッフの採用と定着に関する悩みが圧倒的に多く、次に事業承継の悩みが続きます。今、院長の頭を悩ませているのは人事労務の問題と言えます。

2. 採用に苦戦

 採用の課題は次のとおりです。
 ①応募者がない、あっても少ない
 ②採用コストの増大
 ③採用ノウハウがない
応募方法として圧倒的に多いのがハローワークの活用、次に知人の紹介、求人検索エンジン等の活用、と続きます。ナース等の人材は人手不足の売り手市場で、ハローワークを活用する人が少なくなりつつあります。
 他方、人材紹介会社を使うと、年収の20~30%を支払わなければなりません。一般企業ではコストをかけて優秀な人材を探すことが当たり前となっていますが、医療・福祉業界では、他業種に比べてスタッフの採用にお金をかける発想が浸透していないのが実情です。また、応募者はホームページをチェックするのにもスマートフォンを使います。クリニックの特徴が一目でわかる工夫をして情報発信に注力しましょう。

3. スタッフの定着

 苦労してスタッフを採用しても、早期退職者が多いことも悩みの一つです。医療・福祉業界の離職率は約15%あり、不名誉な特徴となっています。スタッフ定着のため、①賃金・給与の改善、②休日・休暇の取得等に注力していますが、それでもスタッフの早期退職が多いのは何故でしょうか?それは、周辺の競争相手が自院の条件を上回っているからです。人事労務面では、待遇改善の他に、院内の人間関係に気を配る必要があります。ポイントはスタッフとの良好なコミュニケーションです。男性院長が女性スタッフの中に入っていくのは難しい側面がありますが、スタッフの定着率の高いクリニックには院長に気軽に話しかけられる空気があります。例えば昼食時スタッフの輪に入って会話に加わり、年に数回、感謝の気持ちを込めて食事会を開催している医院も少なくありません。スタッフは院長が思う以上に距離感を重要視しています。

4. 事業承継問題

 クリニックの院長の平均年齢は61歳だそうです。また、60歳以上の院長に「自分の引退後にクリニックをどうするか」との質問したところ、「未だ不明」と答えた院長が過半数を占めます。さらに1/4にのぼる院長が自分の代で閉院を予定しているそうです。筆者の経験から、閉院も多くの時間とお金がかかり、決して楽ではありません。第三者承継、M&Aも増えていますが、全く面識のないドクターへの承継となるので、承継後のトラブルもよく耳にします。

5. グループ診療にすると

 MMPGの米国医療事情視察でクリニックを視察した時のことを想い出しています。当時の米国のクリニック院長の悩みの1つは離婚率が高いことでした。視察した多くのクリニックは、複数のドクターが在籍してグループ診療を行い、1ヶ月間も夏休みが取れる体制にしていました。また、頻繁に医療訴訟が発生していたので、高額となった保険料のシェアにも役立っていました。日本でもグループ診療が増えてきており、私共の関与先にも、開業当初からグループ診療を行っているクリニックがあります。その中で、20年ほど前に、2人のドクターが大阪府内で小児科クリニックを立ち上げ、7年前に院長交代をして現在4人のドクターで経営をしています。昨年には持分なし医療法人へ移行し、分院を開設して、順調に成長しています。グループ診療のメリットは次のとおりです。
(1)理念や治療方針等に共感してくれた医師や看護師・スタッフが同じクリニックで働いている。
(2)クリニックを引き継ぐための人材マネジメントや収益確保の方法等を日常業務の中で経験しているので、経営者に向いているか判断できる。また、引き継ぐ意思があるかの確認もできる。
(3)年齢に応じた診療体制が組める。ドクターはスポットで勤務できる。
(4)若いドクターが入ればデジタルツール活用のカベも低くなる。電子カルテ導入やWeb予約、オンライン診療の推進等がやりやすくなる。
(5)1人医師で全てやりくりしている他院に対し、種々の差別化が図れるので、スタッフが集まり定着しやすい。また、定期的に育児講演会等を開催することで口コミにより知名度が上がり、地域でのブランド化も進む。

6. むすびにかえて

 少子高齢化の進展で地方の病院の経営が苦しくなってきており、今後病院の統廃合が加速すると予想されます。一方、医学部の定員増で医師の数は増加しています。病院数が減少して医師の数が増えれば、勤務医が減ってグループで開業・診療する形態のクリニックが増加すると予想されます。複数のドクターが係ることでワークライフバランスが向上し、長期休暇が取りやすくなり、育児・介護といった家庭との両立を図りやすくなる、と期待されます。
 一方、複数の医師が係るので
 ①意思決定が複雑になる
 ②利益分配の調整
 ③内部の人間関係の対立
等のデメリットにも注意が必要です。いずれにしてもパートナーとの信頼関係の構築が成功のカギとなります。
 院長は目の前の患者さんと真摯に向き合っているが故に現状を変える必要性を感じないかもしれません。今の50代の院長が60代・70代になっても今のクリニック経営を続けられるか、どの方向に舵を切るかを判断するきっかけになれば幸いです。